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2015年2月 1日 (日)

【資料】武術稽古法研究45◎「相対的浮き絶対的浮き」と順逆の方向性の同時的存在

本日2月1日(日)夜の◎特別講座「甲野善紀の術理史 第15回 ~ 重心と浮き」のテーマに関連した、1996年当時のわたしの稽古研究レポート第二弾を転載します。

武術稽古法研究45
中島章夫
日付1996/09/18

◎「相対的浮き絶対的浮き」と順逆の方向性の同時的存在

 「『中間重心』と『例の力』」(96/08/12)の中で「身体の浮き」について触れたが、この所の甲野先生の興味はもっぱら「身体の浮き」にあるようだ。この身体の浮く感覚をどのように捉えたらいいのか考えてみたい。

●魚の身を残して骨を抜く
 9月6日の恵比寿の稽古で、『正面の斬り』の初期の形を稽古していた時、「背骨から頭を通って釣竿が伸びるように、南京玉すだれのすだれがシュルシュルと伸びるみたいに」とか自分で説明をしながら、井桁術理の共同開発者の永野さんの例えを思い出した。
 井桁術理発見の初期(いわゆる「井桁ショック」の頃)に、永野さんは『正面の斬り』の説明で「魚の骨だけがズズッとヌケて身だけ残る感じ」と言っていた。その時はピンとこなかったが、今になってみるとその感覚が分かる気がする。

●上方、下方を志向する矢印
 『正面の斬り』(初期形態)の時、背骨を通って頭頂部を抜ける中心軸が軸方向に伸びるように相手に向かっ
ていくのだが、このとき上半身全体が同方向に一緒に動いてしまうとどうしても気配が多く出てしまうし、上体に意識が片寄ってしまう。そこで肩から腰にかけての部分(ここを「肩腰〈けんよう〉部」と呼ぶ)は残すような感覚で中心軸を伸ばす。
 しかし実際には中心軸だけが伸びることはなく、肩腰部もともに動いていく。それでもなお「骨だけヌケて身は残る」感覚があるとはどういうことだろうか。
  私の感じるところは中心軸が頭頂部を抜けて伸びていくのと同時に、肩腰部は逆方向に落ちている。しかも実際の肩腰部が「筋肉を緩めることで今ある処から数 ミリ落下して止まる」というのではなく「常に下方を志向する矢印が内在する状態」として肩腰部が存在するのである。これは『肩の溶かし込み』の感覚と似て いる。
同時に中心軸は「上方を志向する矢印が内在する状態」なのである。話は抽象的だが「そんな感じがしている」
という例えとして読んでほしい。

●『浮きモドキ』=「相対的浮き」
 私はこの時の中心軸の有り様が「浮き」につながる感覚ではないかと思っている。まあ、9月13日のコミニティカレッジの講座で甲野先生が、現在の先生の「浮き」の感覚は、目指す「浮き」に比べれば『浮きモドキ』
にすぎないと言っていたことを思えば、私の感覚は「浮きモドキモドキ」でしかないだろう。
  さて、ここで重要なのは、肩腰部が固定された土台となった状態で中心軸が伸びても「浮き」の感覚にはならない、浮かせる場所の周囲が(必ずしも周囲とは限 らないだろうが)逆方向に落ちていく時そうした感覚が生まれるということだ。そういう意味において甲野先生が目指す「絶対的浮き」に対して「相対的浮き= 浮きモドキ」と呼ぶのが適しているのかもしれない(本当は「浮きモドキモドキ」だが……)。
 『浮きモドキ』の感覚は決して「上方・下方」だけだ けでなく、『井桁術理』の「腕の中を割る」一例として「腕の表側は前方に、裏側は手前に力を流す」ような使い方をしたときも、腕そのものがフッと浮く感じ がする。この腕を縦にすると、そのまま『中間重心』の姿形になる。背中から腰、後方に引いた脚部の裏側を通っ
てストンと落ちるのに拮抗するように両足の中間から会陰に向かう上方の矢印が上体をやじろべいのように支える状態(『浮きモドキ』の状態)となる。

●「絶対的浮き」と空間の落下
 このように考えていくと、相対的浮きとしての『浮きモドキ』の感覚は「順逆の方向性の同時的存在」と共にあるのではないかと考えられる。今の私が考えるのもどうかと思うが、それでは「絶対的浮き」とはどのようなものなのだろうか。
  おそらく「順逆の方向性」の片方が自身の身体の外側にあるということではないか。どうしたらそんなことが可能かどうか分からないが、回りの空間が下方に落 ち続ける感覚と身体の内部の上方へ向かう感覚の同時的存在の実現をクリアしなければならないだろう。しかしこれは超常現象であり、「術理」として語れる性 格のものかどうか疑問の残ることではある。
以上

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